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結婚数年で子どもを授かり,住宅ローンを組んで自宅を購入した夫婦が,離婚の危機に陥る・・・。
意外に思われるかもしれませんが,離婚相談の中でも非常に件数の多いタイプのご相談です。あまりにご相談が多いので,私はこれを「住宅ローンクライシス」と名付けています。
お子さんが生まれ,自宅を購入し,一見順調に思われるこうした夫婦が離婚の危機に見舞われるのはなぜでしょうか?
第1の理由として,住宅ローンによる予想以上の家計の圧迫があります。
住宅ローンクライシスが疑われるご相談では,家計の状況を確認するようにしていますが,住宅ローン,光熱費,食費,自動車関連費,教育費,被服費,医療費,その他の雑費を順に確認してみると,家計にほとんど余力がないというケースが多くみられます。
お子さんの成長に伴って家計の支出は増えるばかりですし,現在の労働環境で給与の大幅なベースアップは期待できません。
にもかかわらず,住宅ローンを組んで数年の時点で家計にほとんど余力がないということは,そもそも住宅ローンの返済計画が甘かったと考えざるを得ません。
もちろん,それを夫婦で理解した上で,一緒に努力して返済していこうという決意があれば問題ないでしょう。
ですが,自宅購入の際,夫婦の一方だけが自宅の購入に意欲的で,他方はそれほど乗り気でないようなケースでは,いざ経済的に苦しくなった時,すぐに不満が表面化します。
また,夫婦とも住宅ローンの負担について十分な認識がない場合も同様です。
第2の理由として,夫婦が子どもの誕生に伴う家庭の変化にまだ十分適応できていないということが挙げられます。
お子さんが生まれる前は,相手の生活習慣や金銭感覚などに多少の不満があっても,自分が我慢すれば平穏な夫婦関係を保つことができます。
ところが,お子さんが生まれるとそうは行きません。
特に妻は,子どものことを最優先に考えるようになるため,夫の不衛生な生活習慣が我慢できなくなります。以前は目をつぶっていた夫の多少の浪費も,子どものための貯蓄に回したいと思うようになります。それまで夫のために費やしていた時間を,子どもの世話に忙殺されるようになります。妻自身の時間を確保したいと,夫に家事や育児の分担を求めるようになります。
一方夫は,突然の妻の豹変に対応できません。自分が粗略に扱われるようになったと感じ,妻が一方的に要求を突き付けてくると感じます。妻の言動をヒステリックに感じるようになります。
こうした問題は,住宅ローンがあるケースに限らないのですが,家計に余裕があれば,ある程度まで回避可能です。ですが,住宅ローンがあるケースでは,家計に余裕がないため,一層深刻になると考えられます。
この問題をごくシンプルに捉えるならば,「社会が豊かになったのだ」と表現できるかもしれません。確かに,経済状況は長らく低迷しています。派遣など不安定な職が増え,収入が増える見込みもなく,将来への不安は蔓延しています。
とはいえ,大多数の人が高等教育を受け,住居にも食事にも困ったことがなく,便利な家電に囲まれて生活しています。
大多数の人がスマートフォンを持ち,いつでも誰とでも,自分が必要とするときだけアクセスし,インターネットで必要な情報を得て,自分だけの自由な世界を築いています。
こうした豊かで自由な生活を離れ,家庭を築くというのは大変な重労働です。
家族という他人と絶えずぶつかり合い,折り合い,新しいルールを作り上げなければなりません。それまで自由に使うことができた自分の時間も,労力も,収入も,すべて家族と分け合わなければならなくなります。
それに伴う不満が,住宅ローンの負担を機に一気に爆発するのが住宅ローンクライシスではないかと私は考えています。
そう考えると,住宅ローンクライシスは,若者の非婚化や,パラサイト・シングルなどの問題と同じ文脈で理解できるのかもしれません。
個人の自由な生活を脅かされない範囲でだけ他人と付き合いたいという考え方の人が増えるにつれ,今後も離婚が増加すると予想されます。
※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります
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